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クリエイター注目!意匠法改正[前編]

2020.12.21
ビジュアルコミュニケーションデザイン本部 エディター 村本倫子

~ウェブデザインが保護対象に~

■1.意匠法の大改正がクリエイターの注目を集める

令和元年、意匠法が大幅に改正され、ウェブデザインの商品購入画面などUI(ユーザーインターフェース)が保護対象になりました。(令和元年5月に公布、令和2年4月施行)
公布当時には、「制作の現場“あるある”の『このサイトと似たUIにしてください』は、今後NGになるのか?」と話題になりました。有識者やクリエイターを驚かせたのが、特許庁の公式サイトで公開された下の図です。これまで意匠権の保護対象は「物品」のみでしたが、新たに「画像」「建築物」「内装」のデザインについても登録できるようになりました。

(図:特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」より引用)
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/isyou_kaisei_2019.html

(図:特許庁「広報誌「とっきょ」2019年12月9日発行号」より引用)
https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol44/07_page1.html

ウェブクリエイターはサイトを作る際、せっせと手を動かしながら美しさや操作のしやすさ追求しています。UI(ユーザーインターフェース)のほか、UX(ユーザーエクスペリエンス)、IA(インフォメーションアーキテクチャ)、アクセシビリティ、ユーザビリティなどの要素を俯瞰しながらサイト制作を行っています。そんな折、急に意匠法を意識せよと言われても、なんとなく遠い話のような印象を抱いてしまうかもしれません。

■2.クリエイターの権利を守る「意匠法」とは

【意匠法1条】 
この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。

意匠法は、「工業的に量産可能な物品等のデザイン(意匠)」を保護し、産業の発達を図ることを目的とした法律です。特許庁に登録されているデザインを無断で他人に利用されないようにすることで、クリエイターが意欲を持って創作活動ができるようにしたものです。模倣品が出回らないようクリエイターの権利を守ってくれる法律なのですね。

そもそも意匠とは生活者の目をひく製品のデザインのことで、イヤホンにペットボトルと、ごくごく身近なものにも意匠権は発生しています。

意匠登録 第1667778号
【意匠に係る物品】イヤホン
【意匠権者】アップル インコーポレイテッド

意匠登録 第1645531号
【意匠に係る物品】包装用容器
【意匠権者】サントリーホールディングス株式会社

■3.保護対象である「意匠」がウェブデザインにまで拡充

【意匠法2条】
この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しく色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第2項、第37条第2項、第38条第7号及び第8号、第44条の3第2項第6号並びに第55条第2項第6号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

現在の意匠法で保護される「意匠」とは、物品の形状や建築物の形状、画像です。

令和元年の意匠法改正以前も、一部の画像については物品として扱われ保護対象となっていました。デジカメの液晶画面やスマホアプリのアイコンなど物品を介して表示される画像が該当します。このような画像を、法律の言葉では「物品の操作のように供される画像であって、当該物品またはこれと一体化して用いられる物品に表示されるもの」と言います。

意匠登録 第1437561号
【意匠に係る物品】デジタルカメラ
【意匠権者】ソニー株式会社

意匠登録 第1498958号
【意匠に係る物品】携帯情報端末
【意匠権者】アップル インコーポレイテッド

令和元年の法改正のポイントは、「物品から離れた画像そのもの」も保護対象となったことです。有識者が驚いているのが、まさにここ。ウェブデザインの商品購入画面などUIは、パソコンやスマホと一体化していません。「物品から離れた画像そのもの」が、つまるところUIなのです。

■4.意匠の保護期間は25年間に延長

令和元年の意匠法改正には、保護対象の拡大の他、もう1つ大きなポイントがあります。それは、意匠権の存続期間が20年から25年に延長されたことです。「25年」というと、ウェブクリエイターからすると、ずいぶん長い期間に思えるのではないでしょうか?くしくも、WINDOWS95が登場した1995年から現在の2020年までが、ちょうど25年です。

この25年間で、パソコンやインターネットが普及し、タブレットやスマホが登場し、ウェブ技術も進化し、世界はまったく変わってしまいました。今後の25年で、ウェブデザインは想像をつかないほど進化を遂げることでしょう。意匠法で保護対象になるUIも今後劇的に進化を遂げていくと考えます。

■5.おわりに

多大な労力と費用をかけて制作したサイトは、クリエイターにとって我が子のようなかわいい存在です。他人に真似されたくない、意匠法で権利を守ろうと意気込むクリエイターも少なくないはず。新・意匠法への期待と、「知らないうちに、他人の意匠権を侵害してしまわないか?」という懸念のはざまで、クリエイターの心は揺れているのではないでしょうか。

本稿を執筆している2020年12月時点では、まだウェブデザインの画像の登録意匠は世の中に公開されていません。新・意匠法改正の施行から8カ月がたちましたが、どのくらい出願があったのでしょうか? また、登録まで近づいている意匠はあるのでしょうか?
私たちも、いつかウェブデザインについて意匠登録出願をする日が来るかもしれませんので、その日に備えて学んでいきたいと思います。次回はクリエイターなら知っておきたい「画像意匠広報検索支援ツール」についてお伝えします。

参考文献
■特許庁 令和元年意匠法改正特設サイト
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/isyou_kaisei_2019.html

■特許庁「意匠制度の概要」
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/torokugaiyo/index.html

■特許庁広報誌「とっきょ」2019年12月9日発行号https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol44/07_page1.html

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